内観を知ったきっかけは柳田邦男さんの「『気づき』の力」という本でした。こんなおもしろそうなことがあるのだと興味を持ちました。

 私はすぐに泣いてしまう泣き虫です。それはきっと心が弱いせいだと、意志が弱いからだと考えておりました。内観をすれば私の心や意志も強くなるのでは、と日々考えました。ですが、なかなか一歩が踏み出せず悩む日々が続きました。

 情けない話ですが私はニ十数年しか生きていないのに、「もう自分の人生は終わった」なんて考えていました。「適当に生きて適当に死ねばいいや」なんて考えておりました。自分に自信が無いのは父や母のせいだと考え、母に電話で当たり散らしていました。仕事でもちょっとしたことで泣いてしまうようになってしまい、ついに仕事を辞めて地元に戻ることになりました。何カ月かゆっくりして自分の道を決めようと考えていました。

 その時に内観をする時間もお金もあることに気づき、その後、やっと内観について調べました。それでそのままこちらに連絡させて頂き予約を取りました。

 こちらに入所する際に思ったことは正直に言いますと「普通だな」でした。「神社やお寺みたいではないのだな」なんて思ってしまいました。「なにか厳しく言われるのかな」と思っていたらそれもなかったです。それで屏風を立てて中に座りました。始めのうちは「これでいいのかな」「思い出って何をしていたのかな」とあまり思い出せませんでした。

 正直に言いますと屏風の中ではずっと深く入り込めませんでした。畳の香りとか風が通る感覚とかからふっと「何となくこういうことがあったなあ」「あの時ああだったなあ」みたいなに、思い詰めて思いだすというよりは、思い出をボーっとしながら感じ取るという感じになってしまいました。

 それでも面接に来られたときに話していくと、点だった個々にばらばらに存在した思い出が線でつながったことがたくさんありました。 「あの時、父がああ言って、私がこうしたから、母はあんなことと言ったのだ」という感じでした。なぞが解けたような気がしました。

 また、今までは感謝もしなかったことが当たり前のことではなく、感謝しなければならないことだったとも気づかされました。食事も朝の支度もお風呂も学費も全部、感謝どころか、わがままばっかり言っていた自分に気づきました。

 「『母のせいだ』『父のせいだ』と思っていたことが、全て自分の心が弱かったせいだ」と気づいた時に、自分が弱かったのは周りのせいではなく、自分がそうやって弱くしていったのだということに、今やっと気づきました。

 帰ったらまずは母にお茶をいれてあげて、話を聞いてもらいたいです。謝りたいです。今度はもっと自分に深く入って内観をできるようになろうと思います。すみませんでした。

*内観体験記は、ご本人にホームページでの掲載をご了解いただき、ある程度年数が経ったものです。内容は匿名性を保てるようにプライベートな部分は修正させていただいておりますのでご了承下さい。